長衛荘-お帰り [南アルプス]
「お帰り!今バスが出ちゃったよ!」
快晴の頂上で誰もいないことをいい事に、湯を沸かしてカップめんを食べ紅茶を飲んでノンビリ気持ちよく過ごした。
13時のバスに間に合うかもしれないと、下りの途中からピッチを上げたが、僅かに間に合わなかった。
しかしそれはそれでよいことだ。
この二時間の間、小屋番やたまたま滞在していた北岳山荘のスタッフとも話ができたし、昼の北沢峠を散歩することも出来た。
森の中の峠は特に見晴らしが良いわけではないが、木漏れ日がとてもここちよい。
バスの時間が近づき、カメラをバッグにしまいこんで今回の山旅は終了した。
仙丈小屋-梯子 [南アルプス]
「この小屋は何時から…?」
「今年から」
聞き方が舌足らずだったようで、スタッフはここでのバイト暦を問われたと勘違いしていた。
私は改めての問いかけを飲み込んで「そう、頑張ってね」と返した。
若い彼は「はい」と元気良く返事をし、折から掛かってきた電話を取った。
そんな事はたいして重要ではないのだが、今もって何時建て替えられたのかは分からずじまいだ。
奥のほうに三階に上がる梯子が有ったが、覗かないまま絵葉書を買って外に出た。
仙丈小屋 [南アルプス]
仙丈ヶ岳藪沢カールの底に小屋が見えてきた。
こじんまりとしたその小屋は近年建て替えられたようでとてもきれいだった。
見上げればカールの上に仙丈ヶ岳、振り返れば摩利支天を従えた甲斐駒ヶ岳が望まれる。
地形図を出して朝夕の光景をイメージしてみた。
朝日を受けた仙丈ヶ岳は……夕日に映える甲斐駒ヶ岳は……そして満天の星たちが輝く夜空は……
馬の背ヒュッテ-朝の光 [南アルプス]
背中に光を感じて振り返ると、高くなった朝の光が強く差し込んでいた。
太陽が窓をテーブルに映し、私はその模様を写した。
コーヒーと紅茶を飲み終えた私たちは、まだ話足りなそうなオジサンの見送りを受け、お花畑の中を歩き出した。
馬の背ヒュッテ-お茶 [南アルプス]
オジサンは厨房の戸を開け奥に向かって「オーイお客さんだよ」と声を掛けてくれた。
コーヒーと紅茶を注文し、しばらく山の話をした。
南アルプスをとても愛している様子で、山々峰々のことをあれこれと話してくれる。
ここに連泊でもするのか、旅立ちの様子もなかった。
こんなふうにひと所に腰を落ち着けて、写真を撮ったり、絵心があればスケッチをしたり、疲れれば適当な岩の上で昼寝をしたり、そういう山旅が出来ればと思う。
もうガツガツとピークハントする年でもないのだから。
馬の背ヒュッテ [南アルプス]
すでにお客さんは出発した後で中はがらんとしていた。
私が靴を脱いで上がろうかどうか迷っていると、中から「どうぞ」と声がかかった。
見ると小屋のスタッフとは思えないオジサンが「上がってコーヒーでも飲んで行きなよ」とニコニコ顔で立っていた。
誘われるままに、上がり框に腰を下ろし靴紐を解いた。
藪沢小屋-影 [南アルプス]
少し立て付けの悪い戸を開けると、朝の光が小屋の中に差し込んだ。
奥の部屋へは靴を脱がなければ行けない。面倒なので首を一杯に伸ばしたが、通路のほかは僅かに見えるだけだった。
しっかりと建ててあり見える範囲はきれいに片付いていた。しかし外のトイレは手を入れたほうが良いと思った。
出掛けに自分の影を撮って入り口を閉めた。
藪沢小屋 [南アルプス]
小さな沢に続いて雪渓を渡ると小屋の前に出る。
この日、まだ小屋番は入っておらず無人だった。
ガタビシと戸を引いて中を覗くと、すぐの所に薪ストーブがあり鍋が二つ掛かっていた。
小屋の中は思ったよりきれいだった。
二~三日もすれば小屋番が常駐するらしい。素泊まりだけだが、それもまた昔に戻ったようで楽しいかも知れない。
こんな場合きっと私のメニューは、アルファ米「白飯」、レトルトカレー、乾燥ワカメのサラダ、それに粉末のオニオンコンソメスープといったところだろう。
コーヒーを入れたマグカップを持ち、三脚をセットし甲斐駒に流れる星でも撮ろうか。