アルプス銀座表裏5 [北アルプス]
☆裏銀座ー三俣山荘〜水晶岳
山の朝は早い。
通常、日の出前の真っ暗い内からゴソゴソやりだす。5時頃「ご飯です」の声がかからる頃には全ての準備を整えて、食べたら速やかに出発して行く。さらに朝食を弁当にしてもらって、みんなが朝食を食べている頃には最初のピークに立っている人もいる。昨夜水晶岳に登ってから引き返して太郎小屋に行く予定の夫婦もそんな早出組で、4時半ごろ外の様子を見に行った時には彼らの居たスペースの布団がきちんと畳まれていた。彼らは今頃、ワリモ岳も超えているかもしれないし、さらにその先かもしれない。鷲羽池へ行ってみると言ってたが、果たして池まで下ったんだろうか、彼らならやりかねないかもしれない。
そんな事を考えながら、私は再度布団に潜り込んでうつらうつらして朝食のコールを待った。
今日の行程は短い、一応休息日だから。
短いが小屋を出るとすぐ鷲羽岳へ標高差400m約1時間半の登りだ。
伊藤新道分岐(多分今は廃道……最近の記録を読んだが素人がやれるルートではない、ヤバすぎる)をすぎていよいよ登りが本格化。前を行く人との差は縮まらないが、後ろから来る人はどんどん迫ってくる……遂に若いカップルに追いつかれて……
「おはようございます。ゆっくり行きますのでお先にどうぞ」
「それでは頂上で待っています」
「大丈夫、あなた方が頂上を出発するまで私たちは着きませんから」
待っててくれる事は無いだろうと思うけど、それならばと少しだけ頑張ってみた……結果は……
ふぅ~~~着いた。
2924.4m鷲羽岳、眼下に鷲羽池、雲海の上に槍穂高や一昨日の出発点大天井岳がまるで海に浮かぶ大型船のようにプカリプカリ。
先ほどの若いカップルに……
「2人並んでる写真撮りましょうか」と話しかけシャッターを押す。
「お二人の写真も撮りましょう」と言われて……
殆どの登山者は絶景をバック(特に著名な頂上では)記念写真に納まるものだが、私たちにはそうした写真がほとんど無い。それは写されるのがあまり好きでないからなのだ。でもこの時は言われるままに首にかけたカメラを渡し、槍を背にしてポーズをとった。たぶん「頂上で待っています」の言葉に彼らの優しさが感じられたからかもしれない。
「ウワァ~カメラ凄い、重い、落としたら大変だからストラップ首に掛けて、いきます、おおぉ、もろに逆光だけどいいですか?ではチーズ!もう一枚ハイポーズッ」
「ハイポーズ」と言われて無意識にキツネサインを……。
「あれっ、それは……」
「ハイ、あれデスッ。こんどSSAで2日間暴れてくる予定デスッ。」
「オジサン、わかぁ~い!」
「えへへ」ちょっと照れ笑い。
若いカップルさんありがとう御座いました、楽しいひと時でした。
ワリモ分岐を過ぎた時、前方から例の若い夫婦があっという間に近づいてきて……
旦那「あまりの天気に水晶で随分過ごしちゃった」
奥方「もう去りたくなぁ~いって云う感じで、写真バシャバシャ撮ってました」
旦那「オジサンたちも早いですねぇ~」
私達「御冗談を。でっ、太郎まで?」
旦那「出来れば薬師の小屋まで。明後日折立からの東京までのバスの切符買ってあるので」
私達「うへぇ~~~、薬師も登るんだう、うひょ~~~」
お互「それでは、何処かでまた、気を付けて」
彼等は風の様に去って行った。
水晶小屋で作戦会議……そんな大げさなものじゃないけど
とにかく今から水晶岳を往復しても、時間的には野口五郎小屋は問題なく行ける。
第一案:今日は野口五郎小屋まで足を延ばして、明日は烏帽子をピストンし烏帽子小屋に泊まらず高瀬ダムに下山。あまった1日で温泉宿に泊る。これはこれで魅力的だ。
第二案:今日は水晶小屋に泊まって半日のんびりと北アルプスを堪能し鋭気を養ったのち、明日は烏帽子小屋泊で明後日下山、もしくはまだ気力が残っていれば予備日を使って船窪経由し(船窪小屋はぜひ泊まってみたい小屋なのです)1日遅れで下山。これは最高に良い。
結局第二案に決定……宿帳記入後寝るスペース確保……ペットボトル1本だけの空身で水晶岳に向かう。
薬師方面に雲はあるもの見晴らしはすこぶる良好だ。ゆっくり歩いて50分程で2986mの頂上を踏んだ。
岩に腰かけてこれまでの行程に目をやり「よくあんな所から来たなぁ~」と感嘆し、これからの行程の野口五郎方面を眺めては「結構長い稜線だなぁ~」と少し不安にもなった。
さて、小屋に戻って少し遅い昼飯にしよう。
小屋の裏に小高い丘がある。
2万5千図には名前が書いていないがどうやら赤岳と言うらしい。
標高は2900m程もあり、他の山域ならば一角の山であっただろうが、北に水晶・南に鷲羽と云う北アルプスの名峰に挟まれて不運をかこっている。
今そこに立って日没を待っているのだが、黒部の源流方面の雲が厚く今日は感動的な夕日は無理なようだ。それなら上空のうろこの様な雲が紅に染まってくれたらなぁとだいぶ粘ってみたが、期待通りにはならず、寒さばかりがどんどん増して、小屋に戻らずにはいられなくなった。最後に、野口五郎に続く稜線から東沢谷へ滝のように滑り落ちる雲の写真を撮って今日の行動に終止符を打った。
2017年8月~9月 表銀座~裏銀座
2017-09-21 00:47
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コメント(16)
写真が、どれもいいです
by asa (2017-09-21 06:48)
そういえば私たちも山頂でのツーショット写真って…ほとんどないかも^^;
鷲羽での雲海の上に浮かぶ槍をバックのツーショット!
これは一生の記念写真ですね^^
(水晶で撮ってもらったかも…探してみます~)
by よしころん (2017-09-21 08:35)
鷲羽からの眺めはいいですね。鷲羽・水晶からの眺めが多いですね。最近水晶小屋が混んでいるという情報ですが、赤牛まで脚を延ばすには水晶しかないし、読売新道で上り下りする方もいるんでしょうね。
by Jetstream (2017-09-21 09:56)
たまには自分の写真もね^^
素敵な写真ありがとうございます。
山での様子を読んでいるだけで、高揚してきます♪
by caveruna (2017-09-21 13:02)
早起きでないといけないんだ!
by 夏炉冬扇 (2017-09-21 18:29)
山子路爺さんは雲海と空の雲の構図がお得意らしいですね~
雲海と雲の写真、とても良いです~キツネと槍穂高の写真も捨てがたい・。
そうや、先日伏見稲荷へ行ってきました・・笑)
by OJJ (2017-09-22 09:07)
実はシルバーウィークに2日休暇プラスして、
鏡平~三俣蓮華~雲ノ平~双六~下山予定だったのです。
しかし、迷走台風18号に負けて断念(泣)
どのくらいの悪天候まで大丈夫なのか判断できないのです。
近くに山子路爺さんのような熟練さんがいたら相談できるのに・・・
by imarin (2017-09-22 09:58)
作戦会議して、予定を変更して
うわ~、楽しそうだ~
天気や体調や、もろもろ条件がいいということも
あるのでしょうね。
素敵な山で、素敵な出会いも嬉しいですね。
by nousagi (2017-09-22 10:12)
山には出会いもアリ、ドラマがありますね。
最後の1枚凄いです!!
山に行かないと撮れない空です。
岸和田祭り、いつか来て下さい。^^
by hatumi30331 (2017-09-22 14:06)
うーむ、素晴らしい景色です。
生で見たらもっとすごいんでしょうね!!
by werewolf (2017-09-22 22:35)
to asa さん
ありがとう御座います。
今回は雲海に浮かぶ北アルプスの名峰を眺めながらに旅でした。雲海の下は雨だったらしく、幸運でした。
to よしころん さん
写真を撮られるのがどうも、なんと言うか、好きでないのです。
よく「撮りましょう」と声をかけられるんですが、「私は撮る方なんで」と言って逃げてます。そんなので、水晶でも野口でも2ショット無いです。
to Jetsteam さん
水晶で温泉沢から登ってきた2人パーティがいました。
私は赤牛は全く頭にありません。そこを目指すJetさん凄い。
to caveruna さん
自分の写真はあまりないんですよねぇ~
顔を白く塗った時はさすがに自撮りしましたけど、記念に。
to 夏炉冬扇 さん
早起きの訳は①気温があがって歩くのが辛くなる前に1日のメドを付けたい②午後になると天気が崩れることが多く、場合によっては雷の危険がある……というこたかなぁ~。
to O J J さん
最近ピースサインをして……と言われると思わずキツネサインをしてしまう私です。もうすっかり刷り込まれてしまいました。
to imarin さん
連休なのに台風来ちゃいましたねぇ~
私の場合は天気予報を見て、晴れそうな日に強引に休みを取って出かけます。なので「判断」という事をすることがあまりないです。つまり「熟練さん」ではないという事です。今回も雨はともかく、風が強い場合は「小屋で停滞する」というくらいの気持ちで入山しました。
to nousagi さん
今回裏銀座を縦走しましたので、烏帽子小屋から針ノ木小屋まで歩けば、白馬岳から西穂高岳までつながります。そんな事もあって烏帽子~船窪を歩いておこうかと思っていましたが……。
to hatumi30331 さん
沸き上がる雲が稜線で堰き止められて……だがやがてダムは満タンになって、とうとう雲があふれ出し、斜面を雪崩のように下って行きます。表現できてないかもしれませんが、多分高い山でしか見られない景色かも。
to werewolf さん
静けさの中で何もかもストップ……でも雲だけがゆっくりゆっくり動いている……そんな感じですかね。
by 山子路爺 (2017-09-23 00:59)
山子路爺さんどれもが素晴らしい写真です!
雲海の写真はどれもが幻想的、天国的で、雲海の雲がゆっくりと動く様子が想像できて素晴らしい。
by bpd1teikichi_satoh (2017-09-23 16:52)
最後の写真、素敵ですね。
雲がヤマを越えて、流れこんでくるのは、雄大ですね。
by テリー (2017-09-23 23:32)
to bpd1teikichi_satoh さん
有り難うございます。
今回の山旅では多くの時間を雲海の上をさまよっている様な感じでした。
とても気持ちのいい稜線歩きでした。
to テリー さん
有り難うございます。
雲の量が多すぎるかとも思うのですが、こればっかりは文句を言ってもどうしようもないですよね。雲が2800m位から上に上がることがあまりなかったのがラッキーでした。
by 山子路爺 (2017-09-24 10:02)
雲の上には別世界がひろがっているんですね
飛行機からではなく
自分の足で歩いて見に行ってみたい気もするけど
どう考えてもやっぱ無理★
by はなだ雲 (2017-09-24 13:19)
to はなだ雲 さん
歩かなくても雲海の上に出られる所……探せばあると思います。
思いつく所は……富士山5合目・新穂高ロープウェイ・乗鞍岳畳平・志賀高原横手山……などかなぁ~。
気が向いたら出かけてみてください。
by 山子路爺 (2017-09-24 22:31)