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山に泊まりに―行者小屋行き帰り [八ヶ岳]

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小屋番の予報どおり、小屋は雲の中だった。

幸いに夜半の風は収まって、雨の勢いはさほどの事はなかった。

「孫のお迎えに遅れないように、でも慎重に下るんだよ」、小屋番の言葉に軽く手をあげて昨日登った尾根へ歩き出した。

苦労して登った地蔵尾根もあっけないほどに降り切った。

行きには賑わっていた行者小屋前の広場には、誰も座る人がないテーブルと椅子が雨に打たれてひっそりとあった。

                                       2011年8月31日 行者小屋にて

 


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山に泊まりに―赤岳天望荘 [八ヶ岳]

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風が強くなった。

その風に乗って阿弥陀岳を糸のような雲が流れる。

しばらくすると薄いベールが山頂を覆いだし、沈み行く太陽に輝く。

そしてそれは、次第に厚みを増してしだいに山頂を隠してゆく。

寒さのためか皆は小屋の中に入って辺りには誰もいない。

私だけがこの美しい光景に見惚れている。

 

 

 

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日没直後、暮れきらない空の下に槍穂高連峰があった。

撤退したルートの再計画をどうしたものかと思いながら、ファインダーを覗いた。

風は力を増して、発電機のプロペラをいきよいよく回した。

もう山の姿は見えなくなって冷え切った体を小屋に戻そうとすると、赤岳頂上小屋の明かりが夜陰に浮かんでいた。

どうやらこの風は天候の悪いほうへの急変を告げているらしい。

                                  2011年8月30日 赤岳天望荘にて

 


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山に泊まりに―赤岳 [八ヶ岳]

昨夜の寝不足と、日ごろの運動不足でまったく調子が上がらない。

おまけに膝上がつりそうで、行者小屋の僅か手前で休憩してお結びをほおばる事にした。

「疲れた」だの「足がつる」だの「腹がへった」だのと毒づきながら、決して不満をたれているのではなく、むしろ喜びの表現なのだから、山歩きとは不思議なものだ。

 

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阿弥陀岳に寄ってから赤岳を越えて小屋に入る予定だった。

「中高年登山者倒れる。原因は寝不足か」というような記事にならないように予定を変更、行者小屋から稜線に直接上がる地蔵尾根を登った。

途中から鎖と梯子の急登で、高度はぐんぐん上がる。

しかし稜線も小屋もそこに見えていながらなかなか着かない。

やっぱり寝不足がこたえている。

 

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赤岳の左に富士山が見えていた。

「頂上から北岳が見えるかもしれないね」小屋のスタッフの声に荷物を置いて、急いで赤岳へ登った。

下りて来る人の「南アルプスは雲の中だった」の残念な知らせに、疲れがどっと出た。

しかし頂上に着いてみると南の方は雲が切れて、権現岳の彼方に北岳と甲斐駒ケ岳が顔を見せていた。

頂上小屋でコーヒーを飲んで、今夜の宿 天望荘へと下った。

少し風が出てきたようだ。


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山に泊まりに―車中泊 [八ヶ岳]

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5時30分、東の空が明るさを増して夜の終わりを告げている。

昨夜、山行きの準備をしていると、少しでも山に近づいておこうという気持ちが湧いて来て、急に車を出した。

三時間ほど走ったここ八ヶ岳PAで、トラックのエンジン音を子守唄にして横になったが、それは心地良いしらべという訳にはいかず何度も目が覚めた。

あと一時間ほど目をつむっておこう、登山口まではもう近いのだから。

 


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蓼科山―思い出 [八ヶ岳]

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その時頂上では風が雪面を舐めていた。

IT君の「蓼科山に登るから、山道具一式揃えて囲碁部の合宿に来い。場所は白樺湖の山荘」という言葉に従って中央線の急行に乗った。

新しく囲碁部の部長になる彼に誘われて、部員でもない私はその春合宿にのこのこ参加した。

一日中碁を打った翌朝、一番のバスに乗って終点のスキー場で降りそこから歩き出した。

ゲレンデが終わると雪は深くなり、先が思いやられたがそれも七合目の鳥居までで、樹林帯に入ると思いの外雪は少なく歩きやすかった。

将監平からは、吹き降ろしてくる風に逆らって、時には泳ぐようにただ真っ直ぐ頂上を目指した。

その時の頂上からアルプスや八ヶ岳が見えたのかどうか良く覚えていない。

ただ風の強さに閉口して早々に下山した記憶だけが残っている。

                                       (大学二年三月中旬の事)

 

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その柴犬にはゲレンデを歩いている途中で気が付いた。

「一緒に行くか」と話しかけると、彼は「いいよ」というように先頭を歩き出した。

しばらく行っては振り返り、大丈夫と確認するとまた歩き出し、まるでこのパーティのリーダーのようだった。

将監平からは雪が深くさすがに無理だと思ったのか、いつの間にか見えなくなったが、頂上から戻ってくると、彼は何処からともなく現れてまた先頭きって下って行くのだった。

彼はゲレンデ売店の飼い犬で、気に入った登山者について度々登るのだそうだ。

 

 

先日IT君と電話でこのときの事など一時間ほど話した。

山登りが出来なくなった彼は「碁を打ちに来い。やっつけてやるから」と電話の向こうで悔しそうに言う。

「では、返り討ちに行こうか」と私は言う。

そして互いの笑い声が交差する。


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蓼科山頂ヒュッテ [八ヶ岳]

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雨が落ちてきた。

小屋に逃げ込んで、うどんを注文してしばしの雨宿りを願った。

後から入ってきた3人組が、奥のストーブのところで酒盛りを始めて、「あんた百名山をやっているのかね?」と話しかけてきた。

「百名山にあまり興味はないんですよ」と答えると、しばらく間があって「俺は全部登ったんだよ。全部登った人はごまんといるけど、全ての頂上で酒盛りをした人はあまりいないだろう。だから百酩酊山だ。」と変わった自慢話になった。

「山渓ジョイ…秋号に、笠ヶ岳頂上での酒盛りの様子が出るから見てくれ、今度の秋号だよ」と宣伝に余念がない。

 

様子を見に外に出てみると雨はまだ降り続いていた。

「ダメだ」、PCをのぞいていた小屋番の呟きが聞こえた。雨雲は去りそうもないらしい。

諦めて小屋を後にして頂上にむかった。


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縞枯山荘―縞枯山 [八ヶ岳]

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蓼科山に登る前日、時間があったので縞枯山まで歩いた。

登りにかかると、道には雪が残っていた。

急になった雪道をしばらく歩くと、突然頂上を示す道標の前に出た。

シラビソの倒木に腰かけおそい昼飯を食べていると、遠くから雷鳴が聞こえた。

山名の由来である枯れたシラビソの縞模様の原因は不明だが、どうやら人間どもの仕業ではないらしい。

森の新陳代謝かもしれないと勝手に解釈した。

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「こんにちは~」と声を掛けたが返事はなかった。

よく見ると「外で仕事をしているので、用があったら……」の張り紙があった。

コーヒー一杯の為に仕事を中断してもらうのも気がひけるので、次回の楽しみにした。

来る時に木道を補修していた人は、帰りもまだその仕事を続けていた。

「小屋の方ですか、また寄ります」と声を掛けると、「ハイ、お待ちしてます」と返事が返ってきた。

小屋が雪に包まれるころに、ここを訪れるのもいいなあと思いながら、帰りの木道を歩いた。

 

(写真上はネガカラーをモノクロに変換、下はデジタルです)


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青年小屋―下山 [八ヶ岳]

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そろそろ帰らないと日が暮れてしまいます。

八月のことだから、今から三時間後に真っ暗になるということもないけれど、足元の明るいうちに下りることにしましょう。

預かってもらっていた荷物を受け取る時に食堂を覗いてみると、きれいに片付いていてスタッフの働きぶりや気配りが見えました。

外で小屋の補修をしていた人もそろそろ帰るようです。

この人たちは、雇われた大工さんでもなく小屋のスタッフでもなく、いわばこの小屋のファンということでしょうか。時間がある時に、里から上がってきて手伝いをして行くようでした。

このように、小屋番をはじめさまざまな人たちに支えられて山小屋は存続し、登山者の安全を守っているのです。

山小屋の存在に感謝しつつ今日の山行きを終えましょう。


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権現小屋―只今ボッカ中 [八ヶ岳]

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「営業中」の看板を見て「コンニチワ~」と声を掛けながらドアを開けた。

中はがらんとして人の気配は無かった。

メモ書きに「只今ボッカ中」と有り、クーラーボックスには飲み物が冷えていた。

ポケットの小銭でジュースを買い、残りを協力金ボックスに入れた。

外で景色を見ながら飲んだ良く冷えたオレンジジュースはカラカラに乾いた喉にことのほか爽快だった。

午後の太陽の下、50kgあるいはそれ以上もの荷物を背に、急な山道を登ってくる小屋番に感謝したい。山の安全を守る一翼を彼らが担っているのだから。


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青年小屋―うどんが出来るま [八ヶ岳]

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おむすびもザックの中にあったが、小屋のお品書きを見たとたん、うどんを食べたくなった。

アレルギーでエビを避けている私は天ぷら抜きの天ぷらうどんを注文し、できるまでの間、小屋の周りを歩いた。

屋根の上には、ほとんど薄くなった雲を押しのけて青空がどんどん広がって来た。

呼ばれて中に戻ると、天ぷらの代わりにワカメがどっさりのったうどんと、若い女性スタッフの笑顔があった。


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